はじめに
近年、企業の決算説明資料や経営方針の中で「ROIC(ロイック)」という言葉を目にする機会が増えました。
以前は「ROE(自己資本利益率)」が企業経営を評価する代表的な指標として知られていましたが、現在では多くの上場企業がROICを重視するようになっています。
実際にトヨタ自動車や日立製作所、オムロンなど、多くの企業が「ROIC経営」を掲げ、経営改革を進めています。
では、なぜ今ROICがこれほど注目されているのでしょうか。
それは、企業が利益を出しているかどうかだけではなく、「どれだけ効率よく利益を生み出しているか」が重要視される時代になったからです。
この記事では、ROICの基本的な意味から計算方法、ROEとの違い、企業がROICを重視する理由、人的資本経営との関係まで、できるだけわかりやすく解説します。
ROICとは?
ROICとは「Return on Invested Capital」の略で、日本語では「投下資本利益率」と訳されます。
簡単に言えば、企業が事業に投資したお金を使って、どれだけ効率よく利益を生み出したかを表す指標です。
例えば100億円を投資して10億円の利益を生み出した会社と、1000億円を投資して20億円の利益を生み出した会社があったとします。
利益だけを見れば後者の方が大きく見えます。
しかし、投資した資本に対する利益の割合を見ると、前者の方がはるかに効率的です。
ROICは、この「効率」を数字で表す指標なのです。
つまりROICは、「たくさん利益を出した会社」ではなく、「限られた資本を最大限に活用した会社」を評価するための指標と言えます。

なぜROICが注目されるようになったのか?
かつての日本企業は、「売上を増やすこと」や「市場シェアを拡大すること」が重要視されていました。
しかし現在では、単に売上を伸ばすだけでは企業価値は高まりません。
例えば、100億円の売上を作るために莫大な設備投資をしていては、利益はほとんど残りません。
一方で、少ない投資で安定して利益を生み出している企業は、将来的にも高い収益性を維持できる可能性があります。
投資家はこの「効率」を重視するようになりました。
そのため、「どれだけ利益を出したか」ではなく、「どれだけ効率よく利益を生み出したか」を評価できるROICが注目されるようになったのです。
ROICの計算方法
ROICの基本的な計算式は次のようになります。
ROIC=税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本 ×100
少し難しく感じるかもしれませんが、考え方はシンプルです。
まず「税引後営業利益」とは、本業で稼いだ利益を税金分まで考慮した数字です。
そして「投下資本」とは、企業が事業を行うために使っているお金の総額を意味します。
つまり、
「本業で得た利益」を「事業に使っている資本」で割ることで、
資本をどれだけ効率よく活用しているかを表しているのです。
ROEとの違い
ROICとよく比較されるのがROEです。
ROEは「自己資本利益率」と呼ばれ、株主から預かった資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示します。
一方、ROICは自己資本だけではなく、借入金なども含めた「事業全体に投入した資本」を対象にしています。
つまり、
ROEは株主の視点。ROICは経営者の視点。と言えるでしょう。
ROEだけを追いかけると、借入を増やして数字を良く見せることもできます。
しかしROICは借入金も含めて評価するため、そのような見せかけの改善は通用しません。
そのため、多くの経営者がROICを重視するようになっています。

ROICが高い企業は何が優れているのか?
ROICが高い企業には共通点があります。
それは、「利益を生み出す仕組み」が優れていることです。
例えば、
・ブランド力がある
・価格競争に巻き込まれない
・生産性が高い
・在庫管理が優秀
・設備投資が適切
などです。
つまりROICが高いということは、企業全体の経営効率が高いことを意味しています。
逆にROICが低い企業は、設備や人材に多く投資しているにもかかわらず、十分な利益を生み出せていない可能性があります。

ROIC経営とは?
近年よく耳にする「ROIC経営」とは、ROICを重要な経営指標として企業を運営する考え方です。
従来は売上や利益が中心でした。
しかしROIC経営では、「この投資は本当に利益につながるのか」という視点で意思決定を行います。
例えば、新しい工場を建設する場合でも、本当に必要なのか。
投資額に見合う利益が出るのか。既存設備で対応できないのか。
という視点で判断します。
つまり、お金を使うことよりも、お金を活かすことを重視する経営なのです。

ROICと人的資本経営の関係
一見するとROICと人的資本経営は別の話に思えるかもしれません。
しかし実際には非常に深い関係があります。
人的資本経営では、社員教育やリスキリング、働きやすい環境づくりなどに積極的に投資します。
短期的にはコストが増えます。
しかし長期的には、①営業力が向上する。②離職率が下がる。③生産性が向上する。
こうした成果が利益につながります。
つまり、人への投資はROICを改善する投資でもあるのです。
だから近年では、人的資本経営とROIC経営をセットで考える企業が増えています。
日本企業がROIC経営に苦戦する理由
ROICは優れた指標ですが、日本企業では導入が難しいと言われています。
理由の一つは、「売上至上主義」の文化です。
日本企業では長年、売上が増えれば良い。市場シェアを拡大すれば良い。
という考え方が強く根付いてきました。
しかしROICでは、利益につながらない売上は評価されません。
また、部門ごとの最適化も課題です。営業部門は売上を伸ばしたい。
製造部門は設備を増やしたい。人事部門は採用を増やしたい。
それぞれが正しい判断をしていても、会社全体としてROICが下がることがあります。
そのため、部門ではなく企業全体で資本効率を考える視点が必要になります。

AI時代にROICはさらに重要になる
AIの普及によって、多くの業務が自動化されつつあります。
しかしAIを導入するにも、大きな投資が必要です。
重要なのは、「AIを導入したか」ではありません。
「AIへの投資が利益につながったか」です。
つまり、AI投資もROICの考え方で評価される時代になります。
AIは導入することが目的ではなく、企業価値を高めるための手段なのです。
営業マネージャーの視点で考えるROIC
営業現場でもROICの考え方は活用できます。
例えば、売上だけを追う営業では、
利益率の低い案件ばかり受注してしまう可能性があります。
しかしROICの考え方を取り入れると、
・利益率・受注単価・営業工数・顧客生涯価値(LTV)
なども考慮するようになります。
つまり、「たくさん売る営業」ではなく、
「利益を生み出す営業」へと考え方が変わるのです。
管理職になるほど、この視点は重要になります。
2030年にはROICはさらに重要な経営指標になる
人口減少やAIの普及によって、企業は限られた資本でより大きな成果を求められるようになります。
その結果、「どれだけ投資したか」ではなく、「投資した資本からどれだけ価値を生み出したか」が経営の中心になるでしょう。
人的資本、AI、DX、設備投資。
これらすべてを効率よく利益へ変えられる企業が、これからの時代をリードしていくはずです。
ROICは単なる財務指標ではありません。
企業の未来を測る羅針盤として、今後ますます重要な役割を果たしていくでしょう。

まとめ
ROICとは、企業が投資した資本をどれだけ効率よく利益へ変えられたかを示す経営指標です。
売上や利益だけでは見えない「経営の質」を測ることができるため、多くの企業がROIC経営へ移行しています。
また、人的資本経営やDX、AI投資とも密接に関係しており、これからの時代には欠かせない考え方と言えるでしょう。
管理職や経営者を目指す方であれば、ROICを理解することは、数字を見る力だけでなく、企業全体を俯瞰して考える力を身につける第一歩になります。