― “数字はあるのに動かない組織”を変えるために

こんな人に読んでほしい

KPIやKGIという言葉を聞いたことはあっても、実際の現場でどう役立てればいいのか分からない。そんな人は少なくありません。
「目標は立てたのに、なぜかチームが同じ方向に進まない」
「月末に未達が判明してから慌てる」
「数字は並んでいるけれど、改善に活かせない」
もしこうした経験があるなら、この記事はきっと役立ちます。


はじめに:なぜKPI/KGIが大切なのか?

ビジネスは気合いや精神論だけでは成果につながりません。
どんなに頑張っていても、進んでいる方向がずれていれば、ゴールにたどり着けないからです。

そこで必要になるのがKGIとKPIです。
KGIは最終的に到達したいゴール、KPIはそのゴールに向かう道のりを小さな階段に分けたもの。
この2つを明確に設定することで、チーム全員が「いま何をすればいいのか」を共通の言葉で理解できるようになります。


KGIとは?最終ゴールを数値で示す

KGI(Key Goal Indicator)は「ゴールライン」にあたる指標です。
たとえば「年間売上10億円」「契約数500件」「顧客満足度90%以上」といった、達成したい最終的な結果を数値で表します。

大切なのは、曖昧に「売上を増やす」などと書くのではなく、具体的に数値化することです。
「前年比120%の売上を達成する」「アンケートで満足度90点以上を獲得する」といった形にすると、ゴールのイメージがはっきりします。


KPIとは?ゴールへの道筋を示す指標

一方でKPI(Key Performance Indicator)は、そのゴールに到達するための途中の目印です。
「売上10億円」というKGIがあるとすれば、その途中には「新規リードを毎月200件獲得する」「商談数を50件にする」「成約率を20%にする」などの段階的な指標が並びます。

イメージとしては、マラソンで「42.195kmを走り切る」のがKGI、10kmごとに設けられたチェックポイントがKPIです。
チェックポイントが適切に置かれていなければ、走っているつもりでもゴールに届きません。


なぜKPIが機能しないのか?

多くの企業でKPIは導入されていますが、形骸化しているケースが少なくありません。
その理由はいくつかあります。

まず、「KGIとのつながりが弱い」という問題です。たとえば「SNSのフォロワー数」をKPIにしても、それが売上に直結しなければ意味がありません。数字は増えても、成果は上がらないというズレが生まれます。

次に、「数字を達成すること自体が目的になってしまう」こと。電話対応時間を短縮することが目標になると、実際には早く切るだけでお客様の問題解決はできていない、というような現象です。

また、「結果の数字しか見ていない」ことも失敗の原因です。月末に売上が伸びなかったと分かっても、その時点では手遅れです。大切なのは、売上という結果につながる“先行指標”を見ておくこと。たとえば「商談件数」「提案数」「サイト訪問数」といった途中の数字を見ていれば、早めに手を打つことができます。

さらに、「定義が曖昧」なことも問題です。部署によって「商談」の意味が違えば、同じ数字を追っているようで実は比較できません。定義を明確にして共有することが必要です。

そして、最後によくあるのが「誰の数字でもない」という状況。KPIは現場の誰かが責任を持って改善できるものでなければなりません。「管理部に言われたからやる」では、行動は変わりません。


SMART原則で目標を明確にする

では、どうすればKPIが機能するのでしょうか。
その答えのひとつが「SMART原則」です。

目標は、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、戦略に関連(Relevant)、期限がある(Time-bound)ことが重要です。

たとえば「売上を増やす」ではなく、「今期末までに売上を前年比120%にする」と表現すれば、誰が見ても何を目指すのかが明確になります。


バランスを取る:バランス・スコアカード

KPIは売上や利益といった財務に偏りがちですが、それだけでは不十分です。
顧客の満足度やリピート率、納期の正確さ、社員のスキルアップといった視点も大切です。

そこで役立つのが「バランス・スコアカード」です。
財務・顧客・内部プロセス・学習と成長という4つの視点でKPIを設計することで、短期的な利益だけでなく長期的な成長も見据えることができます。


成功のカギを見抜く:CSF(重要成功要因)

どのビジネスにも「ここを押さえなければ成功しない」という要素があります。
これをCSF(Critical Success Factor)と呼びます。

たとえばSaaS企業であれば「解約率を下げる」ことが最重要。
飲食店であれば「回転率とリピート率」。
ECサイトであれば「カゴ落ち率の改善」。

このように、KGIを支える根本の要因を見抜き、KPIをそこに寄せていくことが欠かせません。


実際の事例で考えるKPI/KGI

営業チームを例に考えてみましょう。
KGIを「年間売上5億円」と設定した場合、これを達成するには「アポイント数」と「受注単価」が大きな要因になります。そこでKPIは「架電数」「訪問数」「提案資料数」といった日々の行動に落とし込むのが効果的です。

ECサイトの場合はどうでしょうか。
KGIを「年間売上1億円」と設定したなら、新規顧客の獲得とリピート率が重要な要素になります。そこで「広告流入数」「購入率」「顧客のLTV(生涯価値)」をKPIにすれば、日々の改善ポイントがはっきりと見えてきます。


よくある疑問Q&A

KPIやKGIを導入しようとすると、必ずといっていいほど現場から疑問が出てきます。

「KPIはいくつ設定すればいいのか?」という質問がよくあります。答えは3〜5個程度に絞るのが理想です。あまりに多いと現場が混乱し、優先順位がつけられなくなります。

「途中でKPIを変えてもいいのか?」という疑問もあります。実際には、変えるべきです。KPIはあくまで仮説ですから、運用してみて成果につながらないと分かったら修正するのが正しい姿です。

また、「OKRとKPIはどう違うのか?」という質問もよく聞きます。OKRは挑戦的な目標を掲げて方向性を示すためのもので、KPIは安定した運転のための計器に近い役割です。両者は対立するものではなく、併用していくことが現実的です。


まとめ

KPIとKGIは、単なる管理用語ではなく、組織を動かすための羅針盤です。
KGIがゴール、KPIがそこに至る階段。
そして、SMART原則で明確にし、バランス・スコアカードで偏りを防ぎ、CSFで成功のカギを見抜く。

事例を通じて見たように、KPIを正しく設計すれば営業でもECでも具体的な改善策が見えてきます。
そしてQ&Aで触れたように、KPIは固定のものではなく、状況に応じて柔軟に変えていくものです。

数字をただ並べるのではなく、因果を意識して設計し、日々の行動に落とし込むこと。
これを徹底することで、数字は冷たいものではなく、組織を前進させる力になります。

KPIが機能すれば、グラフの向こうにチームの動きが見えてきます。
そして、その積み重ねが確かな成果へとつながるのです。